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栄枯衰勢

先日、夫の残った夏休みを利用して、懐かしいMホテルを訪れた。
県下の有名行楽地にあり、その規模と自然にマッチした洗練された外観、豪華さはまさしく
リゾートホテルと言うにふさわしく、誰もが1度は泊ってみたいホテル(この辺りに住む人にとっては…)
に名前があがるだろう。
このホテルがオープンしたのはずいぶん前になる。1992年12月のことだ。
バブルに乗り売上を伸ばし、ピーク時には23億円の売上があった。
私が初めてこのホテルに宿泊したのは、そのピーク時だったと思う。
今は亡き、夫の父に見送られて出掛けた朝を今でも覚えている。
当時、県外に住んでいた私は、流行りの雑誌を見てMホテルに一目ぼれし、「絶対にこのホテルに
泊まりたい」と意気込んでいた。
オープンから何年かしてそのチャンスがやってきて、私はスイートルームの次に高い部屋を予約した。
青天の中、心躍らせてホテルに着くと、凝ったデザインの帽子のびしっと決めたベルボーイが居て、
にこやかに迎えてくれる。
ロビーの大理石の床はピカピカに磨かれ、ロビーから続くショッピングモールにはエステサロンや
高級ブランドのブティックが連なっていた。
エレベーターで最上階に降り、続く廊下は果てしなく長く思われ、ようやくとおされた部屋の
カギを開けると…
すぐに家具などは見当たらない。
真っ白な廊下だけが見え、右手にあるドアを1つ開けると、全面大理石の真っ白なパウダールームと
浴室、トイレ。
それぞれがゆったりとした広さで独立しており、肌触りの良い上質なタオルに独特のマークとロゴが
刺繍されたタオルが並んでいる。
こだわったアメニティ1つ1つもロゴの入った箱に入れられ、真っ白な中にそのロゴの色だけが強烈
に印象的に残った。
廊下をさらに進むと左に扉があり、そこを開けるとようやく部屋の全体が見渡せた。
今までに見たことがない位の広いスペースは、リビング?と寝室に分かれており、腰かけると
ゆっくりと沈む大きいソファーが置かれ、寝室との境には扉を開けるとホームバーになるスペースが…。
ホームバーには洋酒から何からびっしりとアルコールが入っており、調度品はどれもいかにもの高級品。
夕食は当時国内に3つしか店舗を持たない有名中華料理のレストランで、中華のフルコース。
フカヒレがこれでもかと入ったスープを頂いた。
翌日の朝はテラスに面した2階席を選び、高原の美味しい空気を味わうとともに、豪華で優雅な
バイキング朝食をゆっくりと堪能した。
それから数年。
バブルの崩壊とともに人気は衰え、磐梯山の噴火騒ぎが追い打ちをかけて2001年に営業を停止した。
磐梯山の影響で客足がパッタリとした時、起死回生と投げ売りのような価格で宿泊した事があったが、
かつてキラキラと輝いていたベルボーイ達が、肩を落としてモップを片手に大理石を磨いている姿が
印象的だった。
閉店から3年後、埼玉県の不動産会社が荒れたままの建物を買い取り、再オープンさせた。
我が家も遠巻きに眺めるだけだったこのホテルに、しばらくぶりに足を踏み入れる事になったのである。
だが…様子は以前とは一変していた。
エントランスに見えるのはお洒落なベルボーイ達の変りに、定年後に再雇用されたのであろうと思える
数人のホテルマン?
2、3人並んではいるが、宿泊客がとおった時だけ挨拶し声をかけるが、すぐ自分たちの会話に
盛り上がる。
チャックイン時に夫が初めに言われたのは、「奥様が以前に当ホテルをご利用になったと書かれて
いらっしゃいましたが、現在はその頃とは違いますので…」という言葉だったという。
我が家の家計の都合で一番ベーシックなツインを予約したので、以前とは全く違うのは勿論なのだが、
とおされた部屋は広さを以外は昔の面影はなかった。
床のカーペットは色あせ、ソファーにもところどころシミが見える。
調度品もあちこち傷が目立ち、バスローブは温泉宿にある浴衣に変わっていた。
自慢のアメニティも一般的なものになり、鮮やかなマークとロゴの代わりに磐梯山の絵が描かれていた。
何より翌日の朝食に驚いた!
朝食会場は結婚式場などでよく使う大広間に変わっており、会場に入ると7,3に分けたおじさんの
「お早うございます!」というドスの利いた声が響く。
たくさん並んでいたバイキングの種類は半分程になっており、空のトレイも目立つ。
楽しみにしていたパンはクロワッサンと食パンのみで、自分で温める為のオーブントースターは
パンのくずやシミで黒ずんでいる。
紅茶のティーパックを入れるためのお湯の入った2つのポットは、空になった事をボーイに
言ったのだが、最後まで空っぽのままだった。
ホテルの前での家族での記念撮影も、相変わらず数人でおしゃべりに精を出しており、
“シャッターを押しますか?”という気の利いた言葉も聞かれなかった。
私達は無言のままホテルを後にした。
口には出さなかったが、“もう2度と来ることはないだろう…”と心の中で呟いた。

話は変るがホテル自体はさておき、今回しみじみ思った事がある。
ホテルのスタッフに対してだ。
老舗の名旅館なら、経験も長く、威勢のいいベテランの仲居さんの方が良いが、
リゾートホテルとなるとちょっと違う。
大理石の床やまっ白い内装に、油ぎった威勢の良いおじさんは妙に似合わない。(本当にごめんなさい)
居心地の悪さの一員はそこにあったと思う。
年齢は、私もどちらかと言えばそのおじさん達に近いのだが、やっぱりおしゃれなホテルには
背筋のピリッとして爽やかなベルボーイの方が絶対に似合う。
建物が多少老朽化していても、最初の入口でもっと違ったなら、こんなに印象は悪くなかったと思う。
世間話に花を咲かせる熟年?の男性スタッフ達はあきらかに浮いていたし、私からすれば
はっきり言って“給料泥棒”に思えた。
玄関に立っていない方がまだ良い。
栄枯盛衰…懐かしさがやるせなさに変わった1日だった。

[2007-09-26 16:15]

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